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ChatGPT is not a skilled person
特許部門

EPO審決 「ChatGPT は当業者ではない」

Written by Louis Lavigne and Bruno Loubet

欧州特許庁(EPO)の審判部による最近の決定 T 1193/23 - 3.2.06 では、特許クレームの解釈における人工知能(AI)、特に ChatGPT の役割が審理されました。

事件の概要
問題の特許(EP 3118356)は、Saurer社により異議申し立てがされ、特許の新規性および進歩性が欠如していると主張した。特許権者であるRieter社は、特許請求の範囲における特定の用語の解釈を支援するため、ChatGPTからの回答を根拠として提出した。しかし、審判廷Board of Appealはこれら回答の関連性を却下し、技術分野の専門家が持つ理解が最も重要であると強調した。

ChatGPTの役割
特許権者は、本事例においてChatGPTという大規模言語モデル(LLM)を使用して、「bearing control」と「check」に対する「monitor」という用語を解釈した。その上で、ChatGPTの回答がこれらの用語の狭い解釈を支持していると主張した。しかし、審判廷は、LLMの回答は未知のトレーニングデータに基づいており、質問の文脈や表現に敏感であるため、関連する技術分野の専門家の理解を必ずしも反映するものではないと指摘した。

主要ポイント

  1. 当業者の理解: 審判廷は、特許請求の範囲の解釈は、技術分野の専門家の理解に基づいて行わなければならないと強調した。この理解は、技術文献や専門家の意見によって裏付けられるもので、AIが生成した回答によって裏付けられるものではないとした。
  2. AIの限界: 大規模言語モデルのようなAIツールは、迅速で権威あるように見える回答を提供できるが、当業者の文脈理解や専門知識を欠いている。その回答は、トレーニングデータや質問の表現方法に影響を受けるため、法的・技術的な解釈には信頼できない。
  3. 判例との整合:この決定は、特許請求の範囲の解釈において当業者の理解の重要性を強調した過去の判決(例:T 206/22)と一致している。T206/22の決定において、審判廷は、LLMがクレームをある意味合いで理解したからといって、熟練した技術者がそう理解するとは限らない点を強調した。この点に関する特に注目すべき論点は、当業者の理解は出願日時点での利用可能なすべての情報に基づいているのに対し、LLMの回答は答弁が提出された時点での利用可能なすべての情報に基づいている点である。

この決定は、クレームの特徴の解釈は依然として人間が行う必要があることを示しています。発明の進歩性や開示の十分性に関する評価においても、当該技術分野の「人間」が関与する場合、同様の原則が常に適用されることを期待できます。

 

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